アアイヤダイヤダ・・・
ああいやだいやだ・・・
嗚呼嫌だ嫌だ・・・

暗闇に声が響く。
誰の声だろう。
遠い記憶の彼方から。
僕のなにかを揺さぶる声が響く。

カタカタ・・・
ぬるぬる・・・
コトコト・・・

暗闇に音が響く。
何の音だろう。
近い身体の此方から。
僕のねむりを揺さぶる音が響く。

永いような瞬く間のような眠りから目を覚ました僕の視界に飛び込んできたのは、奇怪な姿の四人の少女だった。
吃驚して声が出そうなところに、彼女達の叫び声が先制して僕の声は何処かへ行方を眩ましてしまった。
そして彼女達は僕を指差して口々にこう言うのだ。
「羽根が生えてる!」
「眼が四つもあるわ!」
「尻尾まで生えてるわよ!」
「でも尻尾はリスさんみたいで可愛い」
・・・彼女達は何を言っているのだろう。
僕は四人の中でも比較的大人しそうな白い洋装の少女に向かって
「そういう君は下半身がうぞうぞとして蛇のようじゃないか」
と言い返すのが精一杯だった。

とはいえ確かに背中とお尻になにかがくっついているのは本当のようだ。
自分の身体をあちこち見てみる。
破れた着物。骨張った羽根。栗鼠の尻尾。
そしてこれこそが自分の身体であるという実感。
そういえば着物の袖になにかが入っているようだ。
取り出すとそこにあったのは一枚の薄汚れた手鏡。
何故だかとても愛しく思える。
手鏡を覗きこめばそこには僕の顔。
そして四つの眼をようやく我が目で確認できた。

そうこうしているうちに誰からともなく自己紹介をしようということになった。
確かに皆で君と僕。私と貴方では不便極まりない。
僕を含めた五人のなかでも一番背が高く年長なのが薫。17歳。
おっとりした口調と蛇の下半身なのがイシス。11歳。
対戦車ライフルなんていう物騒なものを担いでるのに最年少の十姉妹。9歳。
僕と同じ着物に日本刀を携えているのがサクヤ。11歳。
そして僕が椿。10歳。

会話をしているうちにみんな姉妹のようにすっかり打ち解けてしまった。
僕も含めみんながみんなどこか記憶が曖昧になっているせいで、だからこそお互いがお互いに寄り添わなきゃいけないと強く思える。
例えば僕は
薫に《独占》
イシスに《友情》
十姉妹に《信頼》
サクヤに《保護》
という感情を抱いた上でみんなと生きていこうと思えたのだけれど、中には《恋心》を持ってしまった人もいるみたいだ。

そういえばみんな身体のあちらこちらがヘンテコになってしまってるけれど、僕を含め五人とも女の子なのは間違いないみたい。僕と十姉妹は一人称が「僕」なのはたまたまなのかな。きっとこの曖昧な記憶の何処かに答えがあるのだろう。

自己紹介も一段落して五人でお喋りをしていると、誰だったかが部屋の外から聞こえてくる物音に気がついた。誰からともなくその音がどこから聞こえてくるのか気になると言い出してからはもうみんなその音が気になって気になって仕方がない。なによりもこの五人以外にも仲間がいるかもしれないのだから。

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